尿漏れ・尿失禁について
意思と関係なく尿が漏れてしまう状態です。最近では尿漏れ吸水パッドのコマーシャルなどもあり、比較的若い世代にも起こるものと認知されてきているのではないでしょうか。
尿道が短く、骨盤底筋が妊娠・出産などでダメージを受けやすい女性の発症が多く、40歳以上の方の4割以上に尿漏れの経験があるとされています。
尿漏れや尿失禁はさまざまな原因で起こるため、泌尿器科で適切な診断と治療を受けることが大切です。QOL(生活の質)を大きく低下させることがありますので、気になる症状がある場合には早めにご相談ください。
尿漏れ・尿失禁の種類
症状や原因によっていくつかの種類に分けられ、それぞれ有効な治療法も異なります。
腹圧性尿失禁
咳、くしゃみ、ジャンプ、重いものを持ち上げる際など、腹圧が急激に上がって尿が漏れてしまう状態です。女性の尿漏れでは最も多く、週に1回以上症状がある方は500万人以上にもなるといわれています。
ヒトは直立していますので、臓器が下がってしまわないよう、骨盤底筋群で臓器を支えています。骨盤底筋群は強い筋肉や靭帯で構成されていて、尿道を締め付ける尿道括約筋も骨盤底筋群に含まれます。女性は妊娠出産で骨盤底筋群に大きなダメージを受けやすく、さらに加齢による筋力の低下で骨盤底筋群がゆるみます。こうした骨盤底筋群へのダメージやゆるみによって、腹圧性尿失禁が起こります。喘息、便秘による強いいきみの習慣化、肉体労働なども骨盤底筋群へのダメージにつながります。
切迫性尿失禁
突然強い尿意に襲われる尿意切迫感があり、トイレに間に合わず漏れてしまう状態です。男性は前立腺肥大症があると発症しやすく、女性は骨盤臓器脱などによって発症することがあります。尿意切迫感や切迫性尿失禁を起こす過活動膀胱も近年は増加傾向にあります。
なお、脳血管障害で脳からの指令がうまく伝わらずに排尿コントロールができなくなっている場合もあります。原因をしっかり確かめて適切な治療を受けましょう。
溢流性尿失禁
排尿障害によって尿を出したいのにうまく出せず、少しずつ自然に漏れてしまっている状態です。男性の前立腺がんの症状として起こること、あるいは直腸がんの手術後にこうした症状を起こすこともあります。また、女性の場合、子宮がん手術後に膀胱周辺の神経機能が低下して溢流性尿失禁を起こすこともあります。
機能性尿失禁
排尿機能など泌尿器には大きな問題がなく、歩行障害や認知症などによって生じている尿失禁です。介護プランや生活環境の見直しが必要な状態です。
尿失禁の検査
症状の内容、起こりはじめた時期や症状の頻度などの変化、尿漏れや尿失禁を起こすきっかけ、お悩みの症状、他の疾患の有無やその内容、普段服用している薬などについて問診で丁寧にうかがいます。
その後、排尿時間や量などを排尿日誌として記録していただき、それを参考にして状態の程度を把握し、必要な検査を行って診断します。ほとんどの場合は、問診や排尿日誌、当院で行う泌尿器科の検査で診断がつきますが、脳や脊髄の疾患が疑われる場合には連携している高度医療機関をご紹介しています。
尿検査
尿を採取して尿の成分や尿路感染症の有無などを調べます。
残尿検査
膀胱内に残っている残尿量を確かめる検査です。
パッドテスト
尿失禁の重症度を調べる検査です。水分を摂取してパッドをつけ、決められた動作や運動を60分間行っていただきます。その後パッドの重量を計測し、尿漏れの量を確認します。
内診
骨盤臓器脱の有無を確認します。また、咳やいきみによる尿道の動き、尿漏れの状態を確認することもできます。
チェーン膀胱造影検査
膀胱にチェーンのついたカテーテルを挿入し、造影剤を注入して膀胱の状態を調べます。主に、腹圧性尿失禁の診断に使われます。
尿流動態検査
尿がたまっている状態や排尿時の状態を再現するために膀胱に生理食塩水を注入し、膀胱の知覚や機能を確かめる検査です。
膀胱鏡検査
内視鏡スコープを尿道から膀胱に挿入し、直接観察する検査です。
治療
腹圧性尿失禁の治療
軽度の尿漏れがある場合には、骨盤底筋群を鍛える簡単なトレーニングで解消できることもあります。また、肥満がある場合には減量することで尿漏れの症状改善につながることもあります。こうした保存療法で十分に改善しない場合には内服治療を検討し、改善に乏しい場合は手術を検討します。尿道を支えるために、ポリプロピレンメッシュのテープを尿道の下に通す手術で改善することができます。低侵襲で回復も早く、再発しにくいとされています。
切迫性尿失禁の治療
症状改善を促す抗コリン薬やβ3受容体作動薬などを処方し、水分摂取量の制限、骨盤底筋群のトレーニングなども行います。また、尿意を我慢する膀胱訓練による効果が期待できる場合もあります。
疾患が関与しているケース
前立腺肥大症や骨盤臓器脱などが尿漏れや尿失禁の発症に関与している場合には、その疾患の治療が不可欠です。症状に気付いたら、お気軽にご相談ください。